【徒然小噺】社会保険料節約という甘い誘惑(2025.8.19)

数年前、ある会社の人事部長からスポットで助けを求められた。とあるコンサル会社から「等級の報酬月額には幅がある。その余白を活用すれば社会保険料は下がり、部長の評価は上がりますよ」と耳打ちされたという。会社も従業員も負担減を歓迎した。勧められるがまま「調整手当」なる項目を月給に創設し、賞与の一部を分散して余白を埋める仕組みを導入したのだが、やがて高額な計算シートも使いこなせなくなっていた▼確かに報酬月額幅の両端は等級の境界である。しかし調整前の月給は必ずしも固定されず、月額変更届が必要な場面もあった。「調整手当2」「調整手当3」と、次第に調整が積み重なっていた▼加えて、法は「名称ではなく実態」で判断する。調整手当と名付けても実質が賞与なら賞与として届け出る必要があり、恒常的なら報酬に算入される。そもそも賃金は、就業規則や雇用契約に則って支給されるものだ▼調査で意図的な調整が認定されれば、遡及訂正や追加負担が生じ得るし、信用失墜も免れまい。社会保険料は重いが、〝法に従って〟〝納める〟義務であることをお忘れなく▼教訓その一。正攻法であれば、とっくに周知されているはずだ。裏技は〝ひよこ喰い〟であるリスクも孕んでいる。オイシイ話なら、専門家や年金事務所へ相談くらいしてほしい▼教訓その二。皆がやっていない妙案を試す前に、皆がやっている業務効率化や無駄削減に手を付けているか、確認してほしい。当該部長を反面教師にして。
※実際に受けた質問や相談に関して向き合った諸々を「新聞コラム形式」で綴りました。
※投稿者:山田留理子(特定社労士)