【徒然小噺】申告された労働時間、信じるしかない?(リモートワーク篇)(2025.7.27)

「申告する労働時間は、信じて頂くしかないのですが」。リモートワーク導入を訴える社員の言葉に、使用者は首をひねった。システムの履歴は単なる操作記録であり、実際に申告通り働いていたかどうかは分からない▼使用者に労働時間の把握義務が課された背景には、過重労働の防止がある。2015年の電通事件を機に、働き方改革実行計画、関連法施行を経て、労働時間の客観的管理が強化された。当時は対面勤務を前提とした制度設計だった▼ところがコロナ禍で在宅勤務が拡大し、労働実態が見えにくくなった。日本労働組合総連合会の『テレワークに関する調査2020』でも、「勤務時間が増えた」と感じる一方で、「稼働実態が不明」との声も目立つ。特に時給制の職種では、労働時間の過大申告が実務上の懸念となっている▼リモートワークでは、始業・終業時刻のリアルタイム報告やPCログの活用が欠かせない。細切れ作業で労働時間を偽装する行為は、公平性と職場の信頼を損なう。連続的労働と休憩時間の明確な線引きが求められる▼厚労省も、在宅勤務について「みなし労働時間制」等の導入を示唆しているが、厳格な適用要件がある。実態が伴わなければ、最判平成24年3月6日(日本ヒューレット・パッカード事件)のように「裁量労働制無効(残業手当支払命令)」とされかねない▼過重も過少も問題である。使用者の労働時間把握義務に協力する姿勢こそが、真に自由で健全な働き方を持続可能にするのだ。
※実際に受けた質問や相談に関して向き合った諸々を「新聞コラム形式」で綴りました。
※投稿者:山田留理子(特定社労士)